慢性腎不全は、進行した段階では、腎臓機能は完全に破壊されてしまい、一度失った腎臓の機能を元の状態に回復することはできません。
このように、医薬や手術で元の状態に戻せる病気ではなく、腎機能の回復は不可能なのです。
そのため、早期発見、早期治療が不可欠な病気です。治療といっても、破壊された部分の腎機能の回復は望めないので、病気がそれ以上進行しないようにする治療、病状の進行をできるだけ遅らせる保存療法ということになります。
治療法は進歩はしましたが、具体的には症状に応じて、次のような療法により延命処置をするというものです。
・食事療法
・薬物療法
・透析療法
・腎移植
これらの治療法の中で、基本となるのは「食事療法」ですが、運動量や仕事量などを抑制することも必要です。
病状の進行状態によって、それ以外の治療が必要となります。
ある程度、病気が進行し尿毒症がでる状態では、「透析療法」と呼ばれる方法に頼るしかなくなり、更なる最終手段としては「腎移植」が必要となります。
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慢性腎不全では、日常生活のエネルギー源として、十分な食物を摂取することが必要ですが、老廃物の生成を増やすたんぱく質量の摂取制限、腎臓に負担を掛ける塩分の制限などを厳重に行う、食事療法が大切です。
病態により、リンやカリウムの摂取も制限し、カルシウムは十分摂取するようにします。
腎臓のネフロン(腎単位)は、窒素を含む物質の処理を行うので、窒素を多く含むたんぱく質の摂取は制限が必要となります。
過剰なたんぱく質の摂取は、ネフロンの処理機能に実力以上の負担を掛けてしまい、残された腎機能をますます低下させてしまいます。
たんぱく質の摂取制限をしすぎて、エネルギー不足に陥ると、血液中に窒素を含む物質が増加し、結局、たんぱく質の過剰摂取と同じ結果を招いてしまうので、現在の腎機能に見合った量のたんぱく質の摂取が肝要です。
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慢性腎不全の治療の基本は食事療法に違いはないものの、それだけでは、十分な効果がでない場合には、薬物療法も併用されます。
慢性腎不全の原因疾患でもある高血圧は、この病気を進行悪化させる大きな要因となります。
このため、血圧降下薬(降下剤)を使用して血圧を適度な範囲になるようにコントロールします。
目標血圧は若年者では120/70mmHg程度、高齢者では130/85mmHg以下です。
また、むくみがある場合には、利尿剤を併用します。
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軽度の慢性腎不全であれば、残された腎機能を維持する保存療法が主体となります。
しかし、腎機能が5~10%以下にまで低下した尿毒症期になると、ちょっとしたことで生命の危険に陥るので、人工透析が必要となります。
透析療法の主な目的は、体内に蓄積した老廃物や水分の除去により、合併症を防止したり、心臓への負担を軽減することにあります。
人工透析機は機能しなくなった腎臓に代わって、血液中の有害物質・不要物質を機械的に体内から除去し、必要な物質を補給し治療するシステムです。
このシステムでは、血液中の老廃物や水分の除去だけでなく、各種電解質の濃度調整、血液のpH調整などを行います。
人工透析には「血液透析」と「腹膜透析」という二つの方法があります。どちらの方法も透析膜を介して、血液と透析液に含まれる物質を交換する仕組みをもっています。
血液中から排泄されるべき物質は透析液側に移動し、体内に取り込むべき物質が透析液側から血液側に移動する仕組みになっています。
現在、日本で人工透析を受けている患者数は、22万人ほどいます。
この内、95%の患者は血液透析で、残り5%の患者が腹膜透析を受けています。腹膜透析法は未だあまり知られておらず、十分普及しているとはいえません。
血液透析は、腎不全の末期状態の患者に対して、現在最も多く用いられている方法です。
簡単にいえば、人工腎臓(透析装置)を用いて、血液中の老廃物や水分を除去した後、きれいになった血液を再び体内に戻します。
通常は、一回当たり4~8時間の時間を掛けて透析し、これを週に2~4回ほど行います。
血液透析法は、血液内の老廃物、尿素やクレアチニンなどを効率よく除去できる利点がありますが、心臓への負担は大きいとされ、高齢者や心臓病の人には使用できないこともあります。
また、血液透析を受けると血圧が急激に低下することもあり、循環器系の疾患がある人には適応できない場合もあります。
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腹膜透析法は、患者自身の腹膜を使用して血液を浄化する方法です。
血液透析では週に2~4回も通院して透析を受ける必要があるのに対して、腹膜透析は、自宅でできて社会復帰も可能となります。
腹膜透析は、自宅で持続的に透析ができるだけでなく、通院も月に1~2回ですむというメリットもあります。
腹膜透析は優れた方法ですが、一方で腹腔内に直接透析液を導入するために、操作を誤ると細菌感染を引き起こす危険性があります。
自宅で行うために、十分な衛生管理を行わないと、この点が弱点ともなりかねません。
人間の体内で胃や腸の周囲を囲み覆っている腹膜という薄い膜があって、その内側の空洞部分を「腹腔」と呼びます。
不思議なことに、この腹膜には腎臓と同様な濾過作用があるのです。
腹腔内に、透析液を注入し一定時間貯留しておくと、腹膜を介して、血液中の不要な老廃物や水分は透析液内に移動し、血液は老廃物や水分が除去され浄化されます。
これが腹膜透析の基本原理になります。
透析液の出し入れ用として、カテーテルと呼ばれる細いチューブを、手術により腹腔内に埋め込んでおきます。カテーテルが体外に露出する部分はわずかです。
血液中の老廃物や水分が透析液中に移行したところで、この透析液を抜き出すと、血液が浄化されたことになります。
この方法では、大掛かりな装置も必要なく、通常、1日4回の入れ替えが必要ですが、1回当りの所要時間は30分ほどで済みます。
従来の腹膜透析に用いられてきた透析液を使用した場合、5年ほどで腹膜機能が低下する問題がありましたが、最近は優れた透析液が開発されているので、はるかに長期間問題なく使えるようになりつつある。
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〔慢性腎不全〕の末期状態に対する治療法としては、透析方法の他に、腎移植という手段があります。
日本では、ドナー(腎臓提供者)の確保が難しいなどで、それほど普及していませんが、最終的な手段としては有望な方法のひとつです。
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