アトピー性皮膚炎の治療は、基本的には「薬物療法」となりますが、発症原因がアレルゲン(抗原)への接触や摂取だけに限らず、環境因子的なものも多分に関係しているので、アレルギー反応以外の要因を無くすことも重要です。
このページでは、薬物療法を主体にご説明しますが、アトピー性皮膚炎の治療には、皮膚の手入れ(スキンケア)は欠かせませんし、ストレスの上手なコントロールや、バランスのよい食事、適度な運動なども必要です。
薬物療法では、「外用薬」としての「ステロイド外用薬」や「非ステロイド外用薬」、「内服薬」としての「抗ヒスタミン薬」や「抗アレルギー薬」「サイトカイン阻害薬」「漢方薬」などがあります。
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ステロイド薬(副腎皮質ステロイドホルモン)の外用薬は、血管の拡張、浮腫(むくみ)などのほとんど全ての皮膚の炎症反応を抑制する効果があります。
ステロイド薬には、アレルギー反応に対しての顕著な効果がある反面、長期に使用すると深刻な副作用が起こる危険性があるので、ステロイド薬の強度などはしっかり知っておく必要があります。
ステロイド薬には「I群」~「V群」までの強度ランクがあります。
「I群」が最強ランクで、「V群」がかなり弱いランクとなっています。
「I群」の薬は足の裏などの皮膚の厚いところに使用します。顔面や陰部などには中間ランクのものを使用します。
全身的副作用 |
「III群(強いランク)」に属する「吉草酸ベタメゾン軟膏」を毎日連続的に炎症のある皮膚に使用すると、顔が丸くなり、赤紫色の皮膚線条が生じる「満月症候群」や「クッシング症候群」などの副作用が現れます。
プロピオン酸クロベタゾールなど、最強レベル「I群」のステロイド軟膏を使用すると、容易にこの副作用が出現します。
ステロイド薬には、身長の伸びを抑制する作用があるので、長期にわたり幼児や学童に用いることは好ましくありません。
このような全身性副作用を抑制するため、皮膚から吸収されるとすぐに弱いステロイドに変化する薬剤も開発されています。
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皮膚局所副作用 |
ステロイド薬にはいろいろな作用があるため、局所的な使用でも多くの副作用が現れる危険性があります。
ステロイド薬は炎症反応を抑制する作用が基本なので、感染に対しての抵抗力が減ることになります。
このため、水虫、田虫、カンジダ症などのような感染症が悪化することが起こります。
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ステロイド薬を使用した顔面や背中、胸など部位にニキビができることがあります。
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ステロイド薬には毛を太くする作用があり、こどもや女性のうぶ毛が太くなり硬化することがあります。
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顔面に1~1か月、ステロイド薬を使用しつづけると、血管が拡張し赤ら顔になることがあります。
この場合、薬品の塗布を中止しても数か月は症状が消えません。
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慢性湿疹や皮膚の掻痒症に長期的に外用薬を塗りつづけると、皮膚がびらん状になり剥けてしまう状態になります。
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ステロイド薬の局所使用で、色素脱色して皮膚が白くなる現象が起こることがあります。
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ランク
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薬の強さ
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主な薬品名
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I群
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最も強い |
・プロピオン酸クロベタゾール
・酢酸ジフロラゾン
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II群
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かなり強い |
・プロピオン酸デキサメタゾン
・ジフルプレドナード
・ジプロピオン酸ベタメゾン
・プテソニド
・吉草酸ジフルコルトロン
・フルオシノニド
・アムノシニド
・ハルノシニド
・酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン
・フランカルボン酸モメタゾン
・酪酸プロピオン酸ベタメゾン
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III群
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強い |
・吉草酸デキサメタゾン
・プロピオン酸デプロドン
・吉草酸ベタメゾン
・プロピオン酸ベクロメタゾン
・吉草酸酢酸プレドニゾロン
・フルオキシノロンアセトニド
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IV群
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弱い |
・プロピオン酸アルクロメタゾン
・トリアムシノロンアセトニド
・ビバル酸フルメタゾン
・酪酸ヒドロコルチゾン
・酪酸クロベタゾン
・デキサメタゾン配合剤
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V群
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かなり弱い |
・酢酸デキサメタゾン
・酢酸メチルプレドニゾロン
・メチルプレドニゾロン
・酢酸ヒドロコルチゾン
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非ステロイド外用薬には、「免疫抑制剤」「非ステロイド消炎鎮痛薬」「保湿剤・単軟膏・基剤」などがあります。
効果 |
臓器移植などで移植された臓器が「非自己」であるとして「拒絶反応」を起こしてしまわないように、リンパ球の作用を抑制する薬に「タクロリムス」という免疫抑制剤があります。
アトピー性皮膚炎も免疫反応としてリンパ球が重要な役割をしているので、炎症のある皮膚局所にこの免疫抑制剤を塗り、リンパ球の働きを抑制することで炎症反応を抑えます。
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副作用 |
免疫抑制剤もステロイド薬と同様に「皮膚感染症」が起こりやすくなります。また、皮膚にヒリヒリした刺激感が起こります。
免疫抑制剤を全身的に大量使用すると、肺炎などの感染症を誘起して非常に危険です。
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薬の種類 |
現在、商品化されている免疫抑制剤は、「プロトピック軟膏」1種類だけです。
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効果 |
非ステロイド消炎鎮痛薬は、炎症に関与する化学伝達物質の産生を抑制したり、作用をブロックすることで炎症を抑える薬です。
炎症の抑制効果はステロイド薬ほど強力ではありません。
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副作用 |
ステロイド薬によるような副作用はほとんど起こりませんが、ときに潮紅・発赤・掻痒症状の悪化・刺激感じ・接触性皮膚炎を起こすことがあります。
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薬の種類 |
非ステロイド消炎鎮痛剤には、それぞれの商品に「軟膏」と「クリーム」とがあります。
薬剤名
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商品名
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イソプロフェンビコノール
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・スタデルム
・ベシカム
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スプロフェン
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・トバルジック
・スルプロチン
・スレンダム
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プフェキサマク
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・アンダーム
・デムコ
・サリベドール
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ベンダザック
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・ジルダザック
・ジベンザック
・ジリオザック
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ウフェナマート
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・コンベック
・フェナゾール
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効果 |
主婦の手湿疹や老人性乾皮症などは、皮膚表面の水分が失われて皮膚の角層がスカスカになってしまった結果です。
保湿剤・単軟膏・基剤などには、皮膚からの水分の蒸散を抑える保湿作用があります。
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副作用 |
特別な副作用はありませんが、ワセリンなどのように、ベタツキ感のある場合が多いです。
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薬の種類
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薬剤名
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商品名
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サリチル酸
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・サリチル酸ワセリン
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ジメチルイソプロピルアズレン
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・アズノール
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尿素
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・ケラチナミン
・ウレパール
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ビタミンA
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・ザーネ
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ヘパリン類似物質
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・ヒルドイド
・ヒウドイドソフト
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酸化亜鉛
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・亜鉛化軟膏
・サトウザルベ
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内服薬には、「抗ヒスタミン薬」や「抗アレルギー薬」「サイトカイン阻害薬」「漢方薬」などがあります。
効果 |
抗ヒスタミン薬は、ヒスタミン受容体に結合して、アレルギー反応で産生されるヒスタミンが後からきても結合できなくすることで生理作用を抑制します。
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副作用 |
人によって、眠気や倦怠感がでることがあります。この薬の副作用には個人差があって、何でもない人から1錠服用しただけで1日中クラクラしたり、眠気に襲われることもあります。
アルコールとの同時服用で副作用が強く出ることもあります。また、緑内障や前立腺肥大のある人は服用を控えた方がよいです。
抗ヒスタミン薬の中で妊婦が服用できるものは厳しく限られています。
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薬の種類 |
下記の表では、抗ヒスタミン薬の中で、抗コリン作用のあるものは「AC」と区分し、産生細胞からの生理活性物質の放出を抑制する薬剤には「R」を付けて区分しています。
区分
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薬剤名
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商品名
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AC
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塩酸ジフェンヒドラジン
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・レスタミン
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AC
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テオクル酸ジフェニルヒドラジン
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・プロコン
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AC
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フマル酸クレマスチン
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・タベジール
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AC
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ベタメタゾン・α-マレイン酸クロルフェニラミン
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・セレスタミン
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AC
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α-マレイン酸クロルフェニラミン
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・ボララミン
・レクリカ
(妊婦にも比較的安全)
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R
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フマル酸ケトチフェン
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・ザジテン
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R
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塩酸アゼラスチン
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・アゼプチン
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R
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オキサトミド
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・セルテクト
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R
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エバスチン
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・エバステル
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抗アレルギー薬1(産生細胞から生理活性物質を放出させない薬) |
効果 |
抗ヒスタミン作業を有しない抗アレルギー薬の一つに、生理活性物質が産生細胞から放出されないようにする作用のある薬があります。
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副作用 |
特別に強い副作用はありませんが、リザベンには、ときに膀胱炎様症状を起こすことがあります。
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抗アレルギー薬1の種類
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薬剤名
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商品名
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クロモグリク酸ナトリウム
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・インタール
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トラニラスト
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・リザベン
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効果 |
抗ヒスタミン作業を有しない抗アレルギー薬の一つに、Th2サイトカインを阻害する薬があります。
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副作用 |
特別な副作用はありません。
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抗アレルギー薬2
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薬剤名
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商品名
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トシル酸スプラタスト
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・アイピーディ
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効果 |
漢方薬や生薬と呼ばれる薬は、西洋医学による薬のように対症療法的に使用されるものではありません。
健康保険で使用できる漢方薬がありますが、患者の体質との関係もあり、その効果は人により様々です。
短期間使ってみて、効果があればしばらく継続は可能ですが、そうでないときは副作用もあるので使用しない方がよいです。
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副作用 |
患者の体質に漢方薬を使用し続けると、胃腸障害や間質性肺炎、血圧上昇などの副作用がでることがあります。
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薬の種類 |
とくにお奨めできるものはありません。特別に漢方薬を試したい場合は、主治医に相談されるのがよいでしょう。
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効果 |
副腎皮質ステロイド薬を服用すると、アトピー性皮膚炎の症状は劇的に治まります。
しかし、ステロイド薬には深刻な副作用が伴うので、慎重に服用しなければなりません。
どうしてもそれ以外の方法がない場合を除けば、この療法は決してお奨めできません。
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副作用 |
重篤な副作用として、顔が丸くなる「ムーンフェイス症候群」や胃が悪くなったり、骨が脆くなる症状が起こります。
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薬の種類
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薬剤名
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商品名
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ブレドニゾロン
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・ブレドニン
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デキサメタゾン
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・デカドロン
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ペタメタゾン
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・リンデロン
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