滲出性中耳炎の治療は、先ず、中耳に貯留している滲出液を取り去り、聞こえをよくする処置を行います。
同時に、この病気の原因となっている鼻や喉などの病気があれば、その病気に対する治療を併行して行わなくてはなりません。
病気の程度が軽度の場合には「薬物療法」や鼻から耳に空気を送る「耳管通気療法」を行います。
難聴の程度が酷くよく聞こえない場合には、鼓膜の一部を切除し内部に貯留する滲出液を吸い出す「鼓膜切開術」を行います。
鼓膜切開術を行っても、滲出性中耳炎を繰り返すような場合には、鼓膜に細いチューブを挿入して膿を排泄する「鼓膜チューブ留置術」という手術が適用されます。
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薬物療法は、中耳腔に存在する原因病原体(起炎菌)を退治し無菌化することを目的に抗生物質の服用や点耳薬の点耳をします。
中耳腔内に貯留する滲出液より、起炎菌として肺炎球菌やインフルエンザ菌などが検出されますが、これらの原因菌に抗菌作用のある抗生物質が選定されます。
抗生物質には、起炎菌の無菌化と同時に、滲出性中耳炎に合併する風邪などの上気道炎を改善する効果があります。
抗生物質の他にも、症状に応じて、鼻粘膜充血除去剤、うっ血除去薬、抗ヒスタミン薬、粘液調整剤などを投与することもあります。
抗生物質 |
抗生物質は内服薬、あるいは点耳薬として使用されます。滲出性中耳炎には、多くの場合、マクロライド系の抗生物質が有効です。
よく使用されるマクロライド系抗生物質には、エリスロマイシン、クラリス、クラリシッド、ルリッド、リカマイシンなどがあります。
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鼻粘膜充血除去剤 |
鼻粘膜充血除去薬には、フェニレフリンがあります。
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うっ血除去薬 |
うっ血除去薬、特に気管支拡張剤には、エフェドリンがあります。
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抗ヒスタミン薬 |
抗ヒスタミン剤は花粉症やアレルギーの諸症状、風邪の諸症状を緩和するために使用される医薬です。
抗ヒスタミン薬には、第一世代と第二世代とがあります。第二世代は更にI類とII類に分類されています。
抗ヒスタミン薬には、眠気や口渇き、便秘、排尿困難などの副作用もあるので、使用は医師の指示に従わなくてはなりません。
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粘液調整剤 |
鼻づまりを解消するために用いられる粘液溶解剤には、ムコダインがあります。
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滲出性中耳炎の治療では、聴力の低下がそれほどひどくなければ、薬物療法だけで様子を見る人が多いです。ほとんどの患者では、7~8歳前後で治ります。
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滲出性中耳炎の原因が、鼻や喉の病気が原因で起こることが多いので、これらの病気と合併している場合には、耳の治療だけでは中耳炎を完治することは出来ず、合併する病気の治療が欠かせません。
合併しやすい鼻や喉の病気には、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)やアレルギー性鼻炎、咽頭炎、喘息(ぜんそく)などがあります。風をひきやすい子供も注意が必要です。
これらの病気があると、鼻の奥にある耳管の機能が低下したり、咳などの圧力により原因細菌が耳管を経由して中耳腔に移動しやすくなります。
この結果、急性中耳炎や慢性中耳炎、滲出性中耳炎などに罹ってしまいます。
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症状がそれほど酷くない軽度なものでは、鼻から耳管を通して中耳腔に空気を入れる耳管通気療法を行います。
耳管通気療法には「ポリツェルゴム球法」と「耳管カテーテル法」とがあります。
幼児などではポリツェルゴム球法を行いますが、少し大きくなり聞き分けのよい幼児や小学生以上では耳管カテーテル法も行われます。
どちらの方法でも、耳管通気を根気よく行い、通気がうまくいけば、かなり聞こえが改善され滲出性中耳炎も軽快していきます。
耳管カテーテル法 |
耳管カテーテルという細い管を鼻の奥まで挿入し、カテーテルの先端部を耳管の開口部である耳管咽頭口に合わせます。
そして空気を耳管より中耳に送り込みます。
小学生以上の子供や聞き分けのよい幼児ならこの方法が使われます。
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ポリツェルゴム球法 |
幼児以下のこどもでは、ポリッツェル球(Politzer ball)と呼ばれるゴム球を鼻に当て、ボールに圧力をかけて中耳に空気を送り込む治療法が使われます。。
ポリツェル球の先端を鼻腔にあて、小児に「ガッコウ」と声を出してもらいます。
このとき「コ」の発声時に合わせて球を押すことで圧力をかけ、空気を中耳に送り込みます。
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鼓膜の奥の中耳腔に液体が貯留している場合で症状が激しいときには、鼓膜を小さく切開して内部の滲出液を抜き出します。
多くの場合、貯留液はネバネバしているので吸引してやらないと除去できません。
この療法が鼓膜切開術で、中耳腔内の液体を排除するだけで、耳の聞こえはすぐに回復します。手術直後には鼓膜に穴が残りますが、数日~2週間くらいで閉じてしまいます。
この手術では、鼓膜を麻酔した上でメスで鼓膜の一部を切開しますが、成人なら外来でも手術可能です。幼児などでは、手術中に動いたししないように全身麻酔で行い、入院が必要です。
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鼓膜チューブ留置術は「鼓膜チューブ挿入(留置)術」とも呼ばれる療法で、鼓膜切開術を行っても再発を繰り返してしまう場合などに行われる手術療法です。
鼓膜切開術により鼓膜を切開し、中耳に貯留した液体を抜き出して一時的に症状が改善しても、鼓膜の穴は数日~2週間程度で塞がってしまいます。
その後、再び中耳に液体が溜まってしまう患者では、何度も切開が必要になってしまいます。
このようなことは継続は出来ないので、鼓膜の切開した場所が塞がってしまわないように、テフロンやシリコン製の直径1ミリほどの小さなチューブを入れ中耳の換気を促します。これが「鼓膜チューブ挿入術」です。
幼児では手術中の事故を防止するため、入院し全身麻酔で行いますが、手術自体は片耳30分以内くらいで終了します。
大きくなった子供や成人では局所麻酔で行い外来でも可能です。
鼓膜に挿入したチューブは数か月すると自然に脱落し外れてきます。鼓膜にチューブを挿入することで、鼓膜に永久的な穴が残ることはありませんし、耳の聞こえが落ちることもありません。
しばらくの期間、鼓膜に穴が開いているので、お風呂やプールに入るときなどに、耳に水が入らないように注意しなくてはなりません。
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滲出性中耳炎の原因の多くが、風邪やインフルエンザ、アデノイド肥大など鼻や喉の炎症などに起因します。
そのため、風邪をひいたりしたら咳や鼻水の症状を長引かせないことが大切です。
どんな病気でもそうですが、滲出性中耳炎の場合も、しっかりした健康管理をし、身体の抵抗力を高めることが重要です。
予防するために、家庭でも次のような点には注意し早期発見するようにしましょう。
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・乳児はできるだけ母乳で育てる。
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・食物の好き嫌いを無くす。
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・栄養バランスに気を配る。
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・風邪をひいたとき、鼻汁を吸い込ませない。
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5 |
・正しい鼻のかみかたを教える。
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