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〔熱中症〕

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この疾患の概要です

 〔熱中症〕は、暑さのために身体の内部と外部との温度バランスが崩れて起こる一連の病気です。

 〔熱中症〕は、俗称として〔熱射病〕とか〔日射病〕〔あつけ〕などとも呼ばれることも多い病気です。

 〔熱中症〕は、大きく分けると〔非労作性熱中症〕と〔労作性熱中症〕とに分類されます。



 〔非労作性熱中症〕の典型的な発症は、密閉性の高い部屋など高温多湿な環境に晒されたり、熱波を浴びたりする高齢者や、炎天下で遊ぶ幼児など、日常生活の中で発症する〔熱中症〕です。

 また、〔労作性熱中症〕は暑く過酷な環境下での仕事中や激しいスポーツなどを行っているときに起こる〔熱中症〕です。

 〔熱中症〕は、暑さのために身体内外の熱バランスが崩れて、様々な体調の不調を呈しながら起こります。



 〔熱中症〕は、主に夏場などの高温多湿の状態で起こりやすいのは事実です。

 しかし、この疾患は、本質的には運動などにより体内で発生する熱がうまく体外に放出できず、体温が上昇してしまうことで起こるので、冬場でも激しい運動をしたりすれば起こることがあります。

 〔熱中症〕の分類は、以前にはその症状の現われ方から〔熱失神〕や〔熱痙攣〕〔熱疲労〕および〔熱射病〕という風に分類されていました。

 しかし、現在では日本神経救急学会により「熱中症の重症度分類」として分類されています。

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Overview
〔熱中症という病気〕

 熱中症(heat disorder, heat illness)は、高温多湿環境下などでの日常生活場面、あるいは激しいスポーツなどの場面で、身体内部で発生する熱がうまく放散されないで、体温が上がってしまう身体適応障害です。

 体温が上昇する結果、異常な発汗が起こったり、汗が出なくなったりします。

 やがて、気分が悪くなったり、めまい、失神、頭痛、吐き気などの症状が発症します。重症になれば生命の危機に晒されます。

 熱中症の発症は、炎天下での作業などで起こりやすいですが、身体内外の温度調節がうまく機能しないために起こる疾患であり、屋外に限らず、しばしば室内でも起こります。

 特に、最近の密閉度の高い室内で高温多湿状態に晒される高齢者などでは頻繁に発症します。


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Symptom
〔熱中症の症状〕

 基本的に熱中症は、体温調節がうまく機能しないことで起こる高温障害ですが、大きくは、高温多湿環境下で過ごしていても起こる〔非労作性熱中症〕と、炎天下での激しい労働やスポーツ中で起こる〔労作性熱中症〕とに分類されます。

 以前には、熱中症はその発症形態から、〔熱失神〕や〔熱痙攣〕〔熱疲労〕および〔熱射病〕と分類されていましたが、最近では日本神経救急学会の熱中症検討委員会による分類として、〔熱中症I度(軽度)〕〔熱中症Ⅱ度(中等度)〕〔熱中症Ⅲ度(重度)〕のように分類されるようになりました。

 新分類法は、従来の分類法では、一般人に分かりにくいとのことから提唱された分類法ですが、ここでは、先ず、従来の分類法と最新の分類法との間の関係を示しておきます。

熱中症の新分類法と従来分類法との関係
新分類 重症度 従来の分類 備考
I度 軽症 熱失神
熱痙攣
Ⅱ度 中等度 熱疲労
Ⅲ度 重度 熱射病 新分類では肝臓、腎臓、血液凝固の異常があれば「Ⅲ度」となる。


〔従来の分類法〕

従来の熱中症の分類法
熱失神  直射日光下に長時間晒されたときや高温多湿環境下で起こる熱中症で、発汗による脱水と末端血管拡張により身体内の血液循環量が不足して発症します。

 体温は正常ですが、発汗を伴いながら突発的に意識を消失します。脈拍も弱くなります。

 輸液と冷却療法により対処します。

熱痙攣  暑さや過激な運動により多量に発汗した後、水分は十分に補給したが、塩分やミネラル分が不足したとき起こります。

 体温や正常で発汗がみられますが、突発的に不随意性有痛性痙攣が生じ、身体が硬直します。

 食塩水の経口投与を行い対処します。

熱疲労  高温多湿や過激な運動などによる多量に発汗したのに、水分や塩分の補給が不足し、脱水状態になって起こります。

 皮膚表面は冷たく、発汗がみられますが、直腸温度は39度C程度まで上昇しています。

 輸液と冷却療法により対処します。

熱射病  高温多湿や激しい運動などで、水分や塩分補給が十分にできず、体温調節機能が失われることにより起こります。

 皮膚は赤く熱を帯び、体温は39~40度C以上にまで上昇しますが、発汗はみられません。頭痛、まめい、吐き気、高度な意識障害が生じます。更に錯乱や昏睡、全身痙攣などの症状を伴うこともあります。

 生命の危険が差し迫っており、極めて緊急的に救急車を呼ぶ必要があります。緊急入院して速やかに冷却療法を行います。

 尚、炎天下での作業中に起こる同様な症状である〔日射病(sun stroke)〕は、〔熱射病〕のひとつの典型例ではありますが、同じではありません。熱射病はしばしば、屋内でも起こるからです。


〔新分類法〕

 熱中症では、その程度により、意識レベルの変化や、体温上昇の有無、皮膚の状態の変化、発汗の有無などに特有な状態が現われます。

日本神経救急学会の熱中症検討委員会による分類
熱中症
I度
(軽度)
 熱中症I度は、軽度の熱中症であり、症状としては従来の分類でいう「熱失神」を起こす状態と、「熱痙攣」の状態とがあります。

 軽度の熱中症(I度)の内で〔熱失神〕に関連する状態では、一時的に脳への血流が不足した状態となるため、めまいや失神など、いわゆる「立ちくらみ」の状態が起こります。脈拍は頻度が多く弱くなり、顔面の蒼白、呼吸回数の増加が現われます。唇や口内粘膜の腫れを伴うこともあります。

 一方、〔熱痙攣〕に対応する状態では、発汗に伴いナトリウムなどの塩分が不足し、いわゆる「こむら返り」と呼ばれる筋肉痛や筋肉の硬直が起こります。しかし、この段階では全身的な痙攣は起こりません。

意識レベルや体温などの状態
状態 熱失神状態 熱痙攣状態 備考
意識 失神・朦朧 正常
体温 正常 正常
皮膚 正常 正常
発汗 (+) (+)

熱中症
Ⅱ度
(中等度)
 中等度(Ⅱ度)の熱中症では、意識レベルは正常ですが、身体がぐったりした状態となり、頭痛や倦怠感、虚脱感など気分が悪くなり、更に吐き気、嘔吐、下痢などの症状が現われます。判断力や集中力が低下するなどいろいろな症状が複数同時に現われます。

 正しい処置を行わないと、Ⅲ度の状態へと重症化してしまう危険性があります。

意識レベルや体温などの状態
状態 熱疲労 備考
意識 正常
体温 ~39℃
皮膚 冷たい状態
発汗 (+)

熱中症
Ⅲ度
(重度)
 Ⅲ度(重度)の熱中症では、体温調節機能が失われたことにより、Ⅱ度の症状に続いて、高度な意識障害や全身的痙攣、手足の運動障害、不確かな言動や行動、過呼吸、ショック症状などの症状が起こります。

 身体的には激しいひきつけ状態がでたり、まともに歩けなくなります。また、呼びかけや身体的な刺激に対しても曖昧な反応となります。

 体温が40℃以上にも上昇し、触ると熱く感じる高体温の状態ですが、発汗はなく、皮膚は乾燥状態です。救急車で緊急入院し、速やかに冷却療法を施さなければ生命の危機に及びます。多臓器不全をともない死亡することがあり、死亡率は非常に高く50%以上にも達します。

意識レベルや体温などの状態
状態 熱疲労 備考
意識 重篤な障害
体温 40℃以上
皮膚 高温 皮膚は乾燥状態
発汗 (-)



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cause
〔熱中症の原因〕

 熱中症が発症する基本的な原因は、身体内で発生する熱を的確に放散できないことで体温が異常に上昇してしまうことです。

 このような状態を招く原因は、直射日光の当たる屋外での作業など容易に推測されるものだけでなく、屋内においても密閉された部屋で高温多湿状態に長く晒されると起こることがあります。

 室内であっても油断はできないのが特徴です。

 熱中症の発生する典型的な状態には次のようなものがあります。多くの場合、作業や環境などの急激な変化が引き金になります。運動や作業の初心者も注意が必要です。

熱中症発生の典型的パターン例
行動 ・長時間のスポーツ終了直後。激しい運動の直後。
・作業日程の初日やその後の数日間。
・室内作業をやめて急に屋外での作業開始時。
・屋内でも厚手の衣服着用時や工事防具装着時。

環境 ・夏季猛暑日での屋外作業。
・密閉室内での高温多湿状態での居住。特に多湿は危険。
・冷房なしで窓を閉め切った生活。特に夏季。
・遮蔽された工事現場。
・窓を閉め切った車内での赤ん坊の放置。

季節  季節的に熱中症の発症しやすい時期は、梅雨明け後に多いとされています。

気温  屋外、屋内どちらでも、気温の高い日時に発症しやすいですが、特に前日よりも急に気温が高くなった日にはより多く発症する傾向があります。

時刻  熱中症が発症しやすい時間帯は、午前中は10時頃、午後では13~14時頃となる傾向があります。

その他  熱中症の好発年齢として、年齢層別に、生活様式や作業形態による注意すべき場合があります。

乳幼児は水分摂取不足での遊びすぎなどが危険。
 ・青少年の場合のスポーツ。
 ・中高年の場合の作業労働環境。
 ・65歳以上の高齢者の屋内生活環境。
 ・肥満者。
 ・発熱のある人。
 ・下痢などしていて脱水傾向のある人。
 ・睡眠不足。
 ・遺伝的素因(家族暦のある人)。

 年齢層でみると、高齢者では男女差はありませんが、全体としては女性よりも男性がやや多く発症します。

 運動や労働面では、どちらも高温環境や作業環境に慣れていない初心者に起こりやすくなります。

 更に、視床下部に作用する薬物を服用する高齢者では、熱中症発症の確率が高くなります。


〔熱中症の起こるしくみ〕

 熱中症は初期には軽度の状態から発症し、時間が経過するに従って中等度、重度と進行していきます。

 初期には、血流異常のために熱失神の状態となり、めまいや失神などの現象が現われます。

 やがて体内電解質が不足状態となり熱痙攣の状態に進行すると四肢などの筋肉の痙攣が起こるようになり、全身倦怠感に襲われます。

 中等度の熱疲労状態にまで進行すると、体内の水分が不足するために、脱力感や頭痛が起こるほか、体温上昇が始まります。  重度の熱射病の段階に至ると、体内の脱水状態が極度に進行する結果、体温調節中枢機能が大きく障害されるようになり、高い発熱をともないながら頭痛からはじまり全身的痙攣や意識障害が起こります。

 身体表面から蒸発して熱を放散すべき水分が不足するために暑いのに汗がでることがなく皮膚は乾燥状態となります。

熱中症発症のしくみ
重症度 状態 発症原因 典型的症状 備考
熱中症
I度(軽度)
熱失神 血流異常 ・めまい・失神
・顔面蒼白
・血圧低下
・冷や汗

熱痙攣 体内電解質不足 ・筋肉の痙攣
・全身倦怠感

四肢、腹部の筋肉の痙攣


熱中症
Ⅱ度(中等度)
熱疲労 体内水分不足 ・脱力感
・めまい・頭痛
・体温上昇
・血圧低下
・(意識障害)



37~39℃の発熱
熱中症
Ⅲ度(重度)
熱射病 体温調節中枢機能障害 ・口や喉の渇き
・皮膚乾燥
・頭痛
・吐気
・全身痙攣
・意識障害
・血圧低下
・体温上昇
多くの症状を伴いながら体温が40℃以上に上昇。

死亡率が50%以上と極めて高くなる。


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Diagnosis
〔熱中症の診断〕

 熱中症の診断は、問診と診察により行われますが、主な注意点は、意識レベルの確認、体温、皮膚の状態、および発汗の有無などです。

 意識レベルについては、呼びかけに応答があっても、反応が鈍かったり、日付や場所、状況などが曖昧となる「見当識障害」があれば、意識障害があるものと見なされます。

熱中症の診断・重症度判定
新分類 重症度 従来の分類 意識レベル 体温 皮膚の状態 発汗
I度 軽症 熱失神 消失 正常 正常 (+)
熱痙攣 正常 正常 正常 (+)
Ⅱ度 中等度 熱疲労 正常 ~39℃ 冷たい (+)
Ⅲ度 重度 熱射病 高度な障害 40℃以上 高温 (-)


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treatment
〔熱中症治療の基本〕

 熱中症の治療の基本は、身体の冷却と経口摂取による水分と塩分の補給です。経口摂取が困難な場合には、点滴で補充します。

 熱中症に罹る本人には熱中症だと感じる自覚症状はないのが普通です。

 逆に自分で熱中症だと感じたときには手遅れの可能性が強いです。同居家人などが、家族が熱中症かもと早めに気づくことが重要です。

 家族や友人が熱中症かもと気づいたら次のように応急処置を行います。

 重度と思われるときには、緊急に救急車を呼ばなくてはなりませんが、救急車到着までの間にもできるだけの応急対処は行いましょう。

 重症度に応じて入院が必要となる場合もあります。

熱中症かもと気づいたときの応急処置
場所
服装
冷却
・直ちに涼しい場所に移動する。

・服装を緩める。

・できれば木陰やクーラーの効いた部屋に移動する。

・適当な場所がないなら、うちわなどで扇いで身体を冷やす。

・冷たい缶ジュースなどを脇の下や股など動脈集中部位に入れて冷やす。

・霧吹きで全身に霧を吹きかけ気化熱で冷やす。

・霧吹きがないなら、口に水を含んで吹きかける。

飲み物 ・経口補水液を飲ませるのが好ましいが、スポーツドリンクでもよい。

・これらがないときには、味噌汁でもよい。

救急車 ・熱中症と思ったら、躊躇することなく救急車を呼ぶ。


〔熱中症の治療〕

 重症度によって、行うべき対処法、治療法は多少異なります。

 次のような症状があるなら、汗をかく水分もないほどに極度な脱水状態となっているので、一瞬もためらうことなく直ちに救急車を呼ばなくては生命が危険です。

 ・40度C以上の発熱がある
 ・高度な意識障害がある
 ・しかも発汗がない

 ここでは、主に医療機関で行う治療法を示しています。

熱中症の治療方法
熱中症
I度
(軽度)
 I度(軽度)の熱中症であれば、服装を緩めて風通しの良い木陰やクーラーの効いた涼しい場所に移動させます。

 水を飲ませたり、できればスポーツドリンクや野菜ジュースなどの水分を与えます。

 また、水500mlに小さじ一杯ほどの食塩を溶かして生理食塩水を作り、少しずつ飲ませると効果的です。

 足を高くして寝かせ、手足を末端部から中心部に向けてさすります。

 吐き気が強かったり、嘔吐があり水分補給が困難なら病院での点滴が必要です。点滴が終われば入院の必要はありません。

熱中症
Ⅱ度
(中等度)
 Ⅱ度(中等度)の熱中症でも、先ずは服装を緩めて風通しの良い木陰やクーラーの効いた涼しい場所に移動させます。

 至急、救急車を呼び待機しますが、救急車到着までの間には、軽度の熱中症の場合同様に、次のような処置を施します。

 水を飲ませたり、できればスポーツドリンクや野菜ジュースなどの水分を与えます。

 また、水500mlに小さじ一杯ほどの食塩を溶かして生理食塩水を作り、少しずつ飲ませると効果的です。

 足を高くして寝かせ、手足を末端部から中心部に向けてさすります。

 病院では、点滴をすると同時に体温を低下させる対処を行います。通常、容態が安定しても入院した方がよいです。

熱中症
Ⅲ度
(重度)
 Ⅲ度(重度)の熱中症では、とにかく大至急、救急車を呼ぶことが不可欠ですが、救急車到着までの間は、軽度~中等度の熱中症の場合同様に、次のような処置を施します。

 先ずは服装を緩めて風通しの良い木陰やクーラーの効いた涼しい場所に移動させます。足を高くして寝かせ、手足を末端部から中心部に向けてさすります。

 体温を速やかに、39度C以下にまで下げる処置が必要です。水で湿らせた身体を扇風機で冷却したり、動脈の通路に近い首や脇の下、股部を氷タオルで冷やします。

 また、アルコールがあるならアルコール湿布が効果的ですが引火の危険性もあるので全身への適用はお勧めはできません。

 水を飲ませたり、できればスポーツドリンクや野菜ジュース、生理食塩水を飲ませます。

 救急車が到着し病院へ移送後には、点滴をすると同時に体温を低下させる「冷却療法」を行います。臓器不全を引き起こす可能性が高いため、人工呼吸器や血液透析、その他の対症療法などの集中治療が行われます。  重度の熱中症では、容態が安定しても入院が必要です。


〔熱中症の予防〕

 熱中症の予防には生活上の注意が重要です。高温多湿環境下での運動や作業にあたる場合は、一定時間ごとに水分を摂取しなくてはなりません。

 喉が渇いてから水を飲むというやり方では手遅れになる可能性が高いです。

 喉が渇く症状が現われる前に十分な水分を摂取します。

 また、塩分の摂取も必要なのでスポーツドリンクや生理食塩水を水筒に入れてもち歩くのがお勧めです。

 熱中症かもと感じたら、直ちに日陰に入り、通風のよい場所で休憩します。本当におかしいと感じたら、すぐに救急車を呼びましょう。

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