大腿骨頚部骨折の治療方針
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大腿骨頚部骨折する高齢者では、骨粗しょう症ばかりでなく、心臓病や脳血管障害、糖尿病、認知症などの症状を呈していたり、治療していることが少なくありません。
このような患者が長期間、ベッドで安静にしていると、筋力などの身体能力が急激に低下したり、食物を飲み込めなくなる嚥下障害がでたり、肺炎を併発する場合などが起こります。また、認知症の方では、その症状が急激に進行してしまいます。
これらは、治療上大きな妨げとなってしまいます。そのため、大腿骨頚部骨折の患者に対する基本的な治療方針は、麻酔や手術に耐えられる体力があるなら、可及的速やかに手術することとなります。
手術や受傷した当日、遅くても2~3日以内に実施します。骨折した骨を手術により確実に固定します。手術後は、疼痛を和らげる投薬などを行いながら、速やかにリハビリテーションを開始します。手術後、即日ベッド上に起き上がらせ、車椅子訓練、歩行訓練へと移行します。
このように、高齢者の大腿骨頚部骨折の治療で重要なことは、早期の適切な手術、早期のリハビリを開始により、寝たきりの状態になることを防止することです。
治療の基本方針は、早期の手術となります。手術法は、骨折の部位や程度により異なりますが、多くの処置法があります。場合によっては、単なる手術ではなく、人工の骨に入れ換えることもあります。
体力がなく、手術に耐えられない状況の場合には、やむなく保存療法を採ることもありますが、この場合にはうまくいっても車椅子の生活となります。往々にして寝たきりになることがあります。
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保存療法
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先に述べたように、大腿骨頚部骨折の治療の基本は手術なのですが、手術に耐えるだけの体力がないなどの理由でやむなく保存療法を採用することがあります。
無理に手術して生命に危険が及ぶリスクが、手術せずに寝たきりになるリスクより大きいと判断した場合に限り行われる療法です。
大腿骨頚部内側骨折の場合は、基本的に骨がくっつく可能性はほとんど期待できないので、数か月安静にしていれば痛みはなくなるとしても、歩けるようにhあなりませんが、車椅子での生活は可能です。痛みがなくなれば速やかに車椅子を使用するリハビリを始めなくてはなりません。
しかし、最悪の場合は、骨折部の血流が悪いために折れた骨が壊死してしまう可能性がないわけではありません。
外側骨折の場合には、安静にしていれば骨は接着する可能性が高いです。3~4週間すれば一応骨は接着してずれなくなり、2~3か月すれば、歩行訓練を開始できるようになる可能性はあります。
高齢者が大腿骨頚部骨折をした場合で手術ができずベッドで安静に寝ていると、身体中の筋肉が衰え、寝たきりになるほか、痴呆が進行したり、肺炎になることがあります。
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手術療法
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大腿骨頚部骨折の手術方法は、内側骨折か外側骨折かなどの骨折の部位、程度、年齢、合併症の有無、全身状態、活動性、家庭環境などに基づいて定められ行われます。
大腿骨頚部骨折及び大腿骨転子部/転子下骨折の治療目的は、早く痛みを取って早くベッドから離し、歩行訓練にもっていくことです。そのために、最近は良い手術機械が多く出ています。
手術の内容は、大きくは「」「」および「」のように分類され実施されます。
保存的手術
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軽度の骨折の場合に整復したり、痛みを取り去るために、膝上の大腿骨に鋼線を通し牽引しておき、長期ベッド上で安静にして骨がくっつくのを待つ方法です。
また、大腿部頚部骨折の安定型骨折の場合で、骨折部に転移がないときには、キャンセラススクリュー、ハンソンピンなどと呼ばれる手術法が採用されることがあります。
大腿骨頚部ではなく、大腿骨転子部や転子下骨折の部位の骨折では、コンプレッションヒップスクリューやガンマーネイル、エンダーピンなどの手術機械により、骨折部を内部で強固に固定する方法が採用されます。侵襲性が少なく早い段階でリハビリを開始できます。
このような手術法でも、若年者であれば問題ないことが多いですが、高齢者では痴呆になったり、痴呆が進行したり、寝たきりになる危険性が大きいので、最初から次に述べるような人工骨頭を挿入する手術が考慮されます。
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人工骨頭挿入手術
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タイプⅡ~Ⅴのような大腿骨頚部の複雑骨折の場合、および高齢者の場合のあらゆるタイプの大腿骨骨折の場合には、骨の接合は困難または不可能なので、最初から人工骨頭挿入術が行われます。
65歳以上の患者には、通常、骨折した骨を接合する方法ではなく、人工骨頭挿入手術が行われます。
人工骨頭挿入手術は、大腿骨の代わりに金属製の人工骨頭を挿入する手術です。この手術は、高齢者にも安全な手術で、下半身麻酔により行い、出血も少なく1時間ほどで終了します。
手術完了すると翌日にはベッドに座ることができるようになります。数日以内から歩行練習を開始し、寝たきりになるのを防止します。手術後3週間くらいで退院でき、一定期間の歩行訓練を終了すれば、日常生活は普通に過ごすことができるように回復します。旅行なども大丈夫です。
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環境整備
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大腿骨頚部骨折を予防する方法として、環境整備が重要です。家庭では次のような点を整備するようにしましょう。
・段差の解消、敷居などのわずかな段差も注意する。
・段差のあるところは証明を明るくする。
・床面上には電気コードや新聞紙などを散乱させない。
・階段やトイレ、風呂場には手すりをつける。
・スリッパ、ぞうり、サンダルを使用しない。
・滑る床材を使用しない。ピカピカ磨きもよくない。
また、転倒防止のために、筋力の低下を防ぐようなストレッチ体操や散歩なども重要です。歩くことは転倒予防の基本で、姿勢を正して歩幅を広く、ちょっと早めに歩きます。小刻み歩きはつまずきやすく問題です。
しばしば転倒してしまう人には、ヒッププロテクターという転倒骨折防止用具が市販されています。
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